絶滅危惧種(完全養殖の未来)

 平成29年(本年)3月、環境省より「海洋生物レッドリスト」が公表された。魚類、サンゴ類、甲殻類、軟体生物(頭足類)、その他無脊椎動物の5分類 約1万種に及ぶ。これまで、様々な生物の絶滅危惧種について報道やドキュメンタリーに接してきたが、魚類に関してのレッドリストが無かったとは気が付かなかった。

 

 レッドリストには大きく4分類(絶滅、絶滅危惧、低リスク、その他)が存在し、さらにそれぞれが、絶滅(絶滅、野生絶滅)、絶滅危惧(絶滅寸前、絶滅危惧、危急)、低リスク(保全対策依存、準絶滅危惧、軽度懸念)、その他(データ不足、未評価)と分類されている。

 中で、魚類の絶滅危惧種は16種(絶滅寸前8種、絶滅危惧6種、危急2種)とされているが、データ不足や未評価ということでその他に分類されている膨大な魚種のなかにも多くの絶滅危惧種が存在するであろうことは想像に難くない。

 上記の16種について個別種をみてみると、ハタの仲間のオオアオノメアラやタマカイやカスリハタ等のハタ類が7種、スズキの仲間のコイチ、ナポレオンで知られるカンムリブダイ、3メートルを超えるシロワニ等、ある生息範囲では食物連鎖の頂点にあると思われる魚種が2/3を占めている。

 ここからは完全なデータの裏付けがないので私の推測になるが、食物連鎖の頂点にある生物は当然他の生物(食物連鎖の下位にある生物)よりもはるかに個体数は少ないだろう。そして自然界はその個体数のデリケートなバランスを保ちながら種を存続しづつけてきたことだろう。

 

 では何故絶滅危惧種が生まれてきたのか。それはかなりの部分(大部分)、人類の食欲がその個体数のバランスを崩してきたためだ。ある時は食物連鎖の底辺の個体を一網打尽に、ある時は食物連鎖の頂点魚種をピンポイントで食べてしまったのである。今後も世界的にみると人口と食欲が自制的になることは考えられない。このままでは、海を食べつくすことになる。

 

 どうするのか? その答えは、既にある。人間は人口増加とともに野生の動物を食べつくしてきたが、それでも人口増と肉食欲は自制できず、飼育という手法を考案し、今では野生に全く依存をしない完全飼育いわば完全養殖を実現。自らの食糧は自然に過度に依存せず自らの手で産み出してきたのである。

 野菜についてもしかり、野生種の採集では間に合わなくなった人口増と食欲を栽培という完全養殖でしのいで来た。

 だがなぜか魚に関しては海のもつ再生力、生産力が地上のそれと桁違いに大きいために、必要性が薄かったということか、養殖の歴史ははるかに浅く、まして、肉、野菜と同様な完全養殖と言える養殖は緒に就いたばかりだ。

 しかしながら、今回の海洋生物レッドリストが公表されたということは、魚についても人間が食するものは海に過度に依存せず、自ら生産するサイクルを確立することは急務であることをあらわしている。海は未来の人類の為に自然のままにしておくことだ。実は私の所属するJIFAS(国際養殖産業会)の活動テーマのコアはまさに魚類の完全養殖なのである。

 

 以下は、完全養殖についての思い付きレベルだが楽しいアイデア。

・駅前シャッター通り商店街の活性化

JIFASの中で谷口雄二郎事務長が主張していることだが、シャッター通りの店舗に養殖プラントを建設、高齢化して海に出られない漁民が街中で漁をする絵。

・巨大タンカー(浮かぶ海洋牧場)

海に浮かぶ巨大タンカーに巨大水槽をつくり、その中で完全養殖を行う。海水は常に新鮮な海水を使用することが出来、世界中の消費地へ養殖場ごと運ぶことが出来る。ある時は中東の大富豪向けに紅海へ、翌月にはヨーロッパの地中海各国へ、自由自在な移動海洋牧場だ。航海中にはヘリでセレブを招き、釣り堀でのフィッシングやプールで遊び、夜はパーティーという船上リゾートにもなる。

 造船業界の未来をを支えることにもつながるであろう。

 

 

2017.04