二日目 大泊(コルサコフ) そして豊原(ユジノサハリンスク) 旅は順調

朝ごはん! 6時半~ホテル2Fレストラン。入り口でスタッフが何かリストを指さして言う。わからない。ああそうか! 部屋番号の欄にサインをしろというんだ! 「ダー!(はい!)」

MTさんとUNさん 早い。6時半には皿を手にしている。続いてMG。OZさんとMSさんが少し遅れてそろって現れる。最年少(58)のNOさんは、この時間には起きて来られないようだ。

ブッフェ形式の朝食は料理の種類もそこそこで飲み物の種類も多い。豆腐そっくりな豆腐みたいなもの、豚バラベーコンにソーセージ、サーモンのソテー、等々。パンも数種類、クロワッサンのようなものは中にジャムなどが入っていて、ピロシキ文化だなあと思う。

「コフィ? ティー?」料理を物色している肩越しに珍しく理解できる言葉が聞こえた。見ると・・・・ 可愛い! ロシア人のイメージ(金髪、青い目)ではない、黒髪のウェイトレスが立っている。まだ新人なのか何となくぎこちないが、珍しく笑みがある。

MGが3年前に聞いたことだが、ロシアの人間は見知らぬ人には決して笑わない。誰彼となく笑って近づくのは、男は詐欺師、女は娼婦だそうだ。日本人は初対面でも平気で笑顔を見せる。サハリン6は周りから見ると詐欺師の集団に見えるのかもしれない。

だから彼女の笑みは珍しく、朝食を美味くする。

ドリンクバーにいる彼女に飲みたくもないのにミルクを注ぐふりをして近づき、胸のネームプレートをチラ見する。MGは元企業調査員だ。『Alina』。「アリーナ?」「アリーナ」「スパシーバ(ありがとう)」。

これだけの会話とも言えない会話だが、満足。

料理に戻ろう。昨晩のソーサー早期回収システムは朝食においても健在、虎視眈々と狙っている気配がする。デザートの果物類は豊富でなかなか豊かだ。特にスイカが美味い! 朝ごはんはアリーナの存在もありGOOD! 明日はどんな朝食メニューなのか楽しみだ。

 

9:00 昨日の道を逆戻りしてコルサコフ(大泊)観光に向かう。昨日のようにベスタさんが一生懸命に情報提供を続ける中、最初に案内されたのはコルサコフ市内を素通りして、海岸にそって東へ10キロ程走った所。オレンジ色の炎が燃える巨大な4本の煙突が見えてきた。プリゴロドノエのLNGサイトだ。サイト内には入れないので遠巻きに見る。多くの外国人労働者が働いていると聞くがかなりの規模でサハリン経済発展の象徴でありカギである。富士山に似た山を背景に赤々と燃えるフレアスタックは圧巻だ。

するとベスタさんは、LNGサイト手前の駐車場から草生す山を登っていく。草まみれの階段を上った先の草むらに突然、石碑の土台のようなものが顔を出す。横には根元と先端が折れた(折られた?)石碑が横たわっている。

 「遠征軍上陸記念碑」。正式には 『日露戦役樺太遠征軍上陸記念碑』と言うらしい。同じ山中には横たわった「中霊塔」と神社跡。どれもまともなものは無い。ロシアにとっては敵国の歴史遺跡であり、保存する対象にはならないのは理解できるが、サハリンにある日本の歴史遺産はほとんどが放置され朽ちているか、壊されて面影もなくなっている。このままではいずれ日本人が遺跡ツアーをするにも対象が無くなってしまうだろう。日本の歴史観光はLNGサイトのフレアスタックとは逆に風前の灯だ。ベスタさんはそのあたりをおもんばかってか、日本軍が撮影した健在なりしころの遠征碑と神社の写真を用意して見せてくれた。心配りが嬉しい。

LNGサイトを左に海岸に降りてみる。この海(アニワ湾)の向こうが稚内。釣り人がぽつんといる。ロシア国籍のカモメの群れが羽を休める。のどかだ。

 

コルサコフ市内に戻りまずはトイレ。コルサコフ市役所前の公園(レーニンさんが斜め左上を見つめるお馴染みのポーズで立っている。)横、管理人のような人がいて男女の別は無く2つのトイレを順番に使う。サハリンのトイレ事情については後で幾度となく触れるが、この公衆トイレは綺麗な方だ。

市の発展に貢献した功労者の顔写真が展示されている市役所前公園、顔写真の中に、ゴルバチョフ、小泉純一郎元首相+アーノルドシュワルツネッガーによく似た功労者の写真を見つけた。少し散策ののち、コルサコフ市内を見渡す展望台へと向かう。

昨日到着した国際埠頭と入国管理事務所を見下ろせる小高い展望台。改めて、「あああそこに着いたんだ、あの建物から出てきたんだ」昨日は確認できなかった位置関係と全体像を把握する。見晴らしは一応展望台らしきものにはなっている。敷地内に真新しい(2007年8月15日)記念塔が立っている。韓国政府や関係機関が建立した、日本軍による韓国人犠牲者の慰霊塔ということだ。サハリンでは韓国人がロシア人に次ぐ人口比で5%を占めるとはいえ、この種のものを世界各地につくることを国是としているのだろうか、街の雰囲気、景観とは違和感がある。

コルサコフ(大泊)を離れ、再びユジノサハリンスク(豊原)へ戻る。

途中、豊原市内手前にはロシアで極東最大規模と言われるCITY MALLがあるのでよってみる。Week Dayの昼間なので客影は少ないが、外国の有名ブランドが並び、土日の賑わいは予想できる。しかし、ロシアらしいものではない。観光客が見たいものと、見せたいものとは必ずしも一致しない場合があるのは珍しくない。

どこかで昼食でも出来ないかと思ったが、それらしい店も見当たらず、市内へ戻って昼食をとることにした。

モールの駐車場で何かケーブル類の埋設工事の現場を見ることが出来た。こちらの道路工事現場はほとんどむき出しで、コーンやフェンスで歩行者を保護することも無い。そのまま放り投げて平気で休憩をとる。都市部のケーブルなどの埋設工事なので溝を掘りカバー等で覆うのかと思いきや、そのままただ埋めているだけだ。何ともおおまか。日本の工事手法や警備員の配置などの安全対策は、国際的には考えられない程高コストでハイレベルなのかも知れない。

 

昼食はベスタさんおすすめ、ユジノサハリンスク駅近くの ロシア料理レストランディスカバリー。メニューは野菜サラダ+ボルシチ+ピロシキ+マッシュポテトと魚。どこかで食べなかったか? 昨日の夕食と同じパターンだ。これがロシア料理なんだと納得。

食事を待ちながら、食べながら、食べ終わってからも、何故かMTさんの動きが激しい。この店のウェイトレスが小柄でとっても可愛いからだ。プロのカメラの腕が鳴る。次々とシャッターを押す。他に女性もいるがレンズはその娘から離れない。サハリン6からの注文、「帰ったらその写真下さい!」

 

午後は、ユジノサハリンスク市内見学。

まずは駅前のレーニン広場、お馴染みの左斜め上をむいた巨大なレーニン像が立つ。ソ連崩壊後ロシアでは各地でレーニン像が撤去されたが、サハリンではまだ残っている。まだ残っている地域では撤去に費用がかかるのでそのままにしている場所もあると聞く。広場は噴水と大きな花壇。よく手入れされ市民の大事な憩いの場だ。商売で乗馬もやっている。

レーニン広場から駅に向かって右に鉄道歴史博物館があり、D51が飾ってある。保存のため塗料が塗られているのだが、いかにも「塗った」という感じ、見た目をより良くしようという繊細さは感じられない。

駅に入った。駅の中も軍事施設なので撮影禁止と聞いていたが、MTさんは我慢できずにベスタさんに聞いてみる。ベスタさんは「撮ってみて下さい」。何のことは無い撮影可能なのだ。構内には売店や軽食喫茶等がある。遠目にみた売店の店員がとても綺麗なので、必要はなかったがミネラルウォーターを買いにいった。彼女は消えて別の店員から買う羽目になった。あの100ルーブルが惜しい。

トイレへ行ってみた。有料トイレで20ルーブル。トイレの入り口に年配の女性が座っている。マトリョーシュカ体形で頬被りの典型的なロシアのおばさん。料金を払うと折りたたんだ茶色の紙を2枚渡される。これで「拭け」ということだ。サハリンのトイレットペーパーは硬い。そしてシャワートイレは全くないため、何日かいると広い土地持ちになる。大地主(大痔主)。旅行の時にはやわらかティッシュを持参した方が良い。日本のトイレットペーパーの凄さ、シャワートイレの奇跡が有難い。トイレを出るときおばさんが親しく話しかけて来る。最初は、「よく出たか? よく拭いたか?」とでも言っているのかと思ったが「日本人か?」と聞いているようだ。「ダー!」。後は嬉しそうにまくし立てて来るが、さっぱりわからない。

次に向かったのは、日本統治時代旭が丘と言われていた山の麓にある勝利広場、現在、これまでサハリン州最大であったロシア正教会をはるかにしのぐスケールのクリスマス正教会が建設中だ。

八端十字架と玉葱屋根のクーポル、白壁と青いクーポルと金の十字架はサハリンの空によく映える。このスケールは市内の全てのホテルから見えることだろう。新しい名所として人気が出るのは確実だ。

建設途上だが見学は可能とのことで、まだ足場が残り、職人が採色作業を行っている現場を見ることが出来た。貴重な体験だ。イコンは大部分完成している。

聖堂には、工事中ながら既に売店は営業しており、お土産イコン等を売っている。そして信者の奉仕だろう、年配の女性が燭台を無心で磨いている。ロシア正教の教会ではよくある光景。観光客の歓声にも気は散らさない。

ロシアではソ連時代、スターリンの銅像が盛んに建てられる一方、ロシア正教会は多くが潰された。その為今ある教会はいずれも新しい。その暗い時代を取り戻す信仰心の強さ、その象徴がサハリンではこのクリスマス教会なのだろう。

聖堂天井を見上げると巨大なキリスト画が我々を見下ろす。見られている! そんな感じのする力感ある眼だ。

教会横のこれも建設中の博物館前広場では、中学生か若い子供達がヒップポップダンスの練習をしている。リーダーらしい娘が長い金髪を振り乱しながら皆に指導している。MTさんの足が動くスピードが上がる。被写体にぐんぐん近づいてゆく。

勝利広場は日本領当時樺太神社であった場所だ。今はソ連の勝利を自慢する場所。

従って神社であったであろうことは言われなければわからない。鳥居は土台の跡すらわからない。参道の階段は玉垣が鋼製手すりに変わり愛の錠前(これが本当の愛鍵か)が多数ぶら下がり、マウンテンバイクの若者が猛スピードで駆け下りる。拝殿があったであろう広場には我々が勝者だ!とばかりに戦車や高射砲が並ぶ。本殿あるいは奥宮があった場所には白い建物が建っている。

終戦時の様々な出来事に様々な議論があるが、戦争とは敗者の文化を勝者が上書きするもの。戦争に『負けて勝つ』は無い。

勝者、敗者は別にして戦車などの武器は人間の技術の結晶としては見るべきものはある。NOさんが高射砲でポーズをとる。

NOさんは稚内出身。稚内のナマコ養殖の応援団として五年前から毎年度バージョンの『なまこちゃんTシャツ』を作成。今回のサハリン6に配布した。MTさん「これは良い!」と愛用、樺太神社跡の戦車の前を闊歩した。


勝利広場を離れ、ガガーリンホテルの向かいにあるロシア土産店ゲルメスによる。ここは食品類は無いが数少ないサハリン土産のお店、マトリョーシュカ、琥珀、写真、バッジ等等。歴代書記長、大統領のマトリョーシュカが面白い。プーチンの中からメドベージェフ、メドベージェフからまたプーチンかと思うと一度出ているからエリツインが来る。エリツインの中からゴルバチョフ。面白いが可愛く無い。そして大きく高い。この店はカタコトの日本語は通じる。日本の観光客が多く訪れるという。それはそうだ、今我々は店の中にいる。

サハリン州郷土博物館は旧日本の樺太庁博物館。日本当時そのままの状態で使用されている。今もわずかに残っている日本領当時の建物の代表的な一つだ。なんと入口の門扉は菊の御紋がそのまま、当時のままに使われている。

入場は無料だが、写真を撮る場合は有料となる。しかしいわゆる自己申告、タダで入って撮影している観光客もいっぱいいる。もちろん清く正しいサハリン6は所定の料金を納付した。

 

館内はテレビ局か何かの撮影が入っていたようで、サハリンII等の一部展示は見られなかったが、北緯50度の旧国境標石や樺太神社の在りし日の写真等目当てのものは見られる。極東の生物の剥製、先住民の文化、ロシア時代の歴史などがコーナー展示されているが、間宮林蔵の功績も充分なボリュームを持って展示されており、リスペクトされていることが分かる。

国境標石は当時日本の最北端国境上に置かれていた 4個のうちの一つで、歴史上日本の陸上にあった唯一の国境を示すもの、日本側には日本語で大日本帝国、境界の文字と菊の御紋証、ロシア側にはロシア語とロシアの紋章 双頭の鷲が記載されている。双方に配慮してか正面から見ると横向きに展示してあり、両サイドからそれぞれの立場で標石の正面が見えるようにと考えた展示だ。

勝利広場に変わってしまった樺太神社は写真の中に生きている。小さな妹なのか手を引いて楽しそうに鳥居に向かって歩いていく。3人の神主が社の前に立つ。どういう状況だったのか剣道の面が半分写っている。全く日本だ。

間宮林蔵は茨城県 今のつくばみらい市の小貝川近くに生まれ東京深川で没している。二度に及ぶ渡樺の末間宮海峡を発見、樺太が大陸と地続きではないことを証明するのだが、その功績が同伴の松田伝十郎と共に大きく紹介されている。日本の歴史が上書きされるロシアで、この扱いは別格だろう。日本人として嬉しい。感謝。

 

博物館前庭は日本庭園を思わせる造りで多くの市民の憩いの場だ。庭内を歩いて見るとそこにも色々な歴史を発見する。ロシア製と日本製の大砲類数種、銃弾跡の残る日本製の巨大な大砲の砲身には『明治二十七八年戦役紀念  海軍大将男爵片岡七郎謹書』と刻されている。横にはこれも巨大な砲弾。敷地内には旧日本軍の戦車が保存状態も良く残されている。各学校に設置されていた「御真影保安殿」まで移設展示されている。この博物館の敷地全体が博物館らしい博物館。想像だけが頼りの跡を訪ねる観光が続いたサハリン6には充実感のある観光地だ。

一旦ホテルに戻り、夕食までの飲み会および夜の宴会に備えて、昨日のスーパーで二度目の買い物。ヴォッカ、スモークサーモン等々、そしてMTさん用のコーラ。

 

本日の夕食は黒猫カフェ。店中に猫グッズが一杯。ウサギや羊のグッズもあるが、いたるところに猫のグッズや写真。ネコ好きには楽しい。

 

主人?or 主人の奥さん?非常に明るく陽気だ。MTさんに自分の写真を撮らせるのだが、写りが気に入らないらしく、何度もダメだし。プロの名人写真家MTさんに対してだ。何度も何度も繰り返す。カメラや写し手のせいではないことに全く気付かないらしい。

 

店のオーナーが農園を経営しているため、食材の大部分が自前だということ、食事が出てくるのが待ち遠しい。

料理は、野菜サラダ+ボルシチ+ピロシキ+マッシュポテト付きメインディッシュ・・・  これで3度目。味は良く、ヴォッカを飲みながらの会食は楽しかった。が、3度目ともなると日本の味覚が脳裏にちらつき始める。

 

ホテルに戻って宴会開始。博識のMSさん、話題は政治、経済、スポーツ・・・・・なんでもOK、熱のこもった議論が弾む。サハリン6はユニークな個性集団、夫々の知恵を集めるととんでもないことが出来そうだ、と、ヴォッカが思わせる。

 

明日は真岡。観光としては実質最終日。これまで曇り勝ちながら雨に降られていない。強運サハリン6は明日の観光、明後日の帰国とそろそろ恋しくなりつつある日本料理を夢に見て就寝。二日目、完!